腕時計は振り子の代わりにテンプを用いて一定周期の振動をさせている。これはテンワという「錘」をヒゲゼンマイという
バネの中心部に固定して振り子と同じように往復回転運動をさせる仕組みになっている。ヒゲゼンマイの外端は固定されている。
図はテンワが反時計方向に$\;\theta\;$だけ回転しているときの様子を表している。テンワの回転方向を半時計回りを+と決めれば
このときヒゲゼンマイは曲率半径が大きくなるように変形する。そうするとヒゲゼンマイは元の形に戻ろうとするため
テンワに復元トルクが発生する。
逆にテンワが時計回りに動くときは曲率半径が小さくなるように変形するが、このときもヒゲゼンマイは元の形に戻ろうとするため
同様の復元トルクが発生する。
この復元トルクはテンワの回転角に比例するため、$\;k\;$をヒゲゼンマイのバネ定数と呼び復元トルク$\;T=-k\theta\;$の関係にある。
振り子の場合の復元力は重力であったが、テンプの場合はヒゲゼンマイのバネ定数ということになる。
それではテンプの運動方程式を立ててみよう。ニュートンの法則の式 $\;m\alpha=F\;$ の両辺に距離$\;r\;$を掛けると次のようになる。
$\;Fr\;$は力×距離なのでこれはトルク$\;T\;$を表す。
\begin{eqnarray}
mr\alpha=Fr=T
\end{eqnarray}
図でテンワの質量$\;m\;$が一点に集中したと仮定したときの回転半径$\;r\;$における速度$\;v\;$は振り子のときと同じように
移動距離$\;rd\theta\;$を時間で微分すればよいから
\begin{eqnarray}
v=r\frac{d\theta}{dt}
\end{eqnarray}
加速度$\;\alpha\;$は式(2)を更に時間で微分すればよいから
\begin{eqnarray}
\alpha=r\frac{d^2 \theta}{dt^2}
\end{eqnarray}
これを式(1)に入れれば
\begin{eqnarray}
mr^2\frac{d^2 \theta}{dt^2}&=&T
\end{eqnarray}
ここで
\begin{eqnarray}
I=mr^2
\end{eqnarray}
とおくと$\;I\;$は慣性モーメントという物体の動きにくさを表す値となり式(4)は
\begin{eqnarray}
I\frac{d^2 \theta}{dt^2}=T
\end{eqnarray}
となる。これはニュートンの法則を回転系で表した重要な式である。
回転系の運動方程式は振り子のときと同じようにまず左辺を
\[
I\frac{d^2 \theta}{dt^2}=
\]
とおいて右辺にすべてのトルクを書き出せばよい。
図でトルク$\;T\;$とは$\;-k\theta\;$のことである。
そうするとテンプが自由振動するときの運動方程式は
\begin{eqnarray}
I\frac{d^2 \theta}{dt^2}=-k\theta
\end{eqnarray}
となり、両辺を$\;I\;$で除すと
\begin{eqnarray}
\frac{d^2 \theta}{dt^2}=-\frac{k}{I}\theta
\end{eqnarray}
となる。
\[\theta_{t=0}=A_0,\;\;\;\;(\frac{d\theta}{dt})_{t=0}=0\]
とおいて式(8)の両辺をラプラス変換(第5部 数学公式集 5-3-2 ラプラス変換表参照)すると
\begin{eqnarray}
&\;&s^2\Theta(s)-s\theta_{t=0}-\left(\frac{d\theta}{dt}\right)_{t=0}=-\frac{k}{I}\Theta(s) \nonumber \\
&\;&s^2\Theta(s)-sA_0=-\frac{k}{I}\Theta(s) \nonumber \\
&\;&(s^2+\frac{k}{I})\Theta(s)=sA_0 \nonumber \\
&\;&\Theta(s)=\frac{sA_0}{(s^2+\frac{k}{I})}
\end{eqnarray}
ラプラス逆変換(第5部 数学公式集 5-3-2 ラプラス変換表参照)すると
\begin{eqnarray}
\theta=A_0cos\sqrt{\frac{k}{I}}t=A_0cos\omega_n t
\end{eqnarray}
ただし$\;\omega_n\;$はテンプの固有振動数で
\begin{eqnarray}
\omega_n=\pi\;f=\sqrt{\frac{k}{I}}
\end{eqnarray}
周期$\;T\;$は
\begin{eqnarray}
T=\frac{2\pi}{\omega_n}=2\pi \sqrt{\frac{I}{k}}
\end{eqnarray}
となる。
式(10)がテンプを自由振動させたときの解である。
これを第1部1-1の式(9)(12)と比較すると$\;g\;$→$\;k\;$、$\;l\;$→$\;I\;$になっただけで振り子の場合と全く同じ形になることがわかる。
また振り子のときと同様に解を$\;sin\;$の形で表せば角速度の初速を$\;\omega_0\;$とおいて
\begin{eqnarray}
\theta=\frac{\omega_0}{\omega_n}\;sin\;\omega_n t
\end{eqnarray}
である。