機械式時計の理論

機械式時計の理論


3-3 ヒゲゼンマイ一般理論

3-3-6 ヒゲ外端変位による等時性誤差

3-3-5で弾性エネルギーが回転角$\;\alpha\;$の関数として


\begin{eqnarray} U=\frac{k}{2}(\alpha^2+\frac{|\Delta|^2}{I_h}) \end{eqnarray}

のように表されたから、これを$\;\alpha\;$で微分すればこのときの復元モーメントが次のように得られる。


\begin{eqnarray} \frac{dU}{d\alpha}=k(\alpha+\frac{d}{d\alpha}\frac{|\Delta|^2}{2I_h}) \end{eqnarray}

$\Delta$は自由端条件にしたときの外端変位であるから$\;\alpha\;$と共に増加する関数である。

$\;I_h\;$は変形後のヒゲの形の断面2次モーメントであるから変形前とは異なり、したがって$\;\alpha\;$の

関数であるがその変化の様子は$\;\Delta\;$に比べれば僅かで近似的には定数とみなすことが出来る。

そこでこれを微分の外に出して


\begin{eqnarray} \xi(\alpha)=\frac{d}{d\alpha}\frac{|\Delta|^2}{2I_h}\approx \frac{1}{2I_h}\frac{d|\Delta|^2}{d\alpha} \end{eqnarray}

とおけば復元トルク$\;M\;$を


\begin{eqnarray} M=\frac{dU}{d\alpha}=k\{\alpha+\xi(\alpha)\} \end{eqnarray}

のように書くことができる。第2項は第1項$\;\alpha\;$に比べて補正項としての大きさであるので上記のような近似が許される。

ここで$\;\alpha\;$はテンワの回転角$\;\theta\;$と等しいからヒゲによる復元トルク$\;M\;$はこれまで単に$\;-k\theta\;$と考えてきたものに

外乱トルクとして$\;-k\xi(\alpha)\;$が入ってきたことになる。そうすると、3-1で求めた外乱トルク$\;f(\theta)\;$があるときの等時性誤差の式


\begin{eqnarray} \delta=-\frac{1}{A^2kT}\int_0^T\theta f(\theta) dt \end{eqnarray}
の$\;f(\theta)$に$-k\xi(\alpha)\;$を代入すればよいので


\begin{eqnarray} \delta=\frac{1}{2A^2TI_h}\int_0^T\alpha \frac{d|\Delta|^2}{d\alpha}dt \end{eqnarray}

となる。これがヒゲ形状が与えられたときの等時性誤差の一般式である。